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ルイヴィトンポルトフォイユエミリーダミエ編集

「そんな馬鹿なことがあるか」  前嗣はたまらず声を張り上げた。  祥子が松永弾正のもとに身を寄せているのではないかという疑いは、前嗣も以前から抱いている。だが、弾正や公朝のために帝に口添えをするはずがなかった。 「祝いの日に、このようなことをお耳に入れるのはどうかと存じましたが」  万一それが事実なら、この先の前嗣の計略にも大きな影響を与えかねないだけに、黙っていることが出来なかったのである。 「よく知らせてくれた。西園寺公の動きからは、今後も目を離さぬようにしてくれ」  これは公朝が流した悪質な飛語にちがいないと前嗣は思った。  そう思う以外に、動揺した心の納まりがつかなかった。 (あの蹴鞠《けまり》めがその手でくるなら、こちらにも考えがある)  熱くなった頭に突拍子もない策が浮かんだのは、言継が下がって間もなくである。  それがどんな結果を招くか深く考える余裕もないまま、前嗣は小豆坊に仕度を命じた。  里子の花嫁行列は、車三台を連ねただけの質素なものだった。正親町天皇の即位の礼が済んでいないだけに、華美に流れることをいましめたのである。  それでも将軍家と摂関家の婚礼だけに、沿道には数万の群衆が見物に出ていた。  三好家の軍勢が去り、洛中は久々にのんびりした空気に包まれている。そうした中で行われる将軍の婚儀は、都人にとって新しい時代の到来を予感させるに充分だった。  立売町の新邸の門前には、真新しい大紋を着た幕府の奉行衆がずらりと並んで出迎えた。  細川、斯波《しば》、畠山《はたけやま》の三管家、山名《やまな》、一色《いつしき》、京極《きようごく》、赤松の四職家の当主や嫡男《ちやくなん》たちである。  足利幕府の枢要をになった三管四職家の大半はすでに没落し、守護代や新しく台頭してきた戦国大名に実権を奪われている。
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