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chloe marcie bag編集

「ええいいわよ、お話するけど、とても変な話なの。じつは、このあいだ詩織ちゃんから、『おもひで』っていう本が来てないか、問い合わせがあったでしょう。ほんとうはその本、美咲さんのお葬式のときに私が借りてきていたのよ。北原白秋の詩が好きだったし、それに白秋の詩集の復刻版なんて珍しいもんだから。もちろん、あなたのお父さんに、ちゃんと断わりましたよ。だけど、大輔さんはこっちを見もしないで、どうぞどうぞって——それでその本、ここにあったの。ところがね、詩織ちゃんから電話がある前の日に、刑事さんが来て、これこれこういう本はこちらで預かっていませんかって……」 「えっ? どうしてそんなことが分かったのかしら?」 「ほんと、私もびっくりして、最初は詩織ちゃんから聞いてきたのかと思ったのだけど、そうじゃなくて、まったくの当てずっぽうだって言うのよ。でも、考えてみると、詩織ちゃんの家と親しくしていて、自由に書庫に出入りできる人って、ほかにはいないかもしれないものね」 「ええ、それは、まあ、そうだけど……」  それにしても、驚くべき洞察力だ——と、詩織は舌を巻いた。 「それでね、もしあなたにその本のことを訊かれたら、ありませんて答えて欲しいって言うの。だから嘘をついたのよ、ごめんなさいね」 「ええ、それはいいんですけど。でも、どうしてなのかしらねえ?」 「さあ、分かりませんよ、それは。だけど、警察の人にそう言われたからには、それなりの理由があると思って、従わないわけにいきませんもの」  伯母の説明を聞いて、詩織は溜め息をついた。 「そうだったの、そんな前から仕掛けをしていたんですか——そうしておいて、川根っていう刑事さんがやって来て、この本を仏壇に隠して、それから伯母さんが電話してきて、私に本を発見させたっていう段取りだったわけですね」 「そうなのよ、詩織ちゃんが言ったとおり。あーあ、もう何もかも分かってしまったのね。だから私はいやだって言ったんですよ。詩織ちゃんは頭がいいから、そんなことしても、きっとバレちゃうって。だのに、どうしてもって……詩織ちゃんのためになることだからって、あんまりしつこく頼まれたもんだから、つい……」 「それって、誰に頼まれたの? あの刑事さんなの?」 「ええ、まあ刑事さんもいたけど、頼まれたのはべつの人よ。今度の変な計画を考えたのもその人だったみたい。贋《にせ》の本を詩織ちゃんの家の仏壇に隠すとか、そのほかいろんなこともその人の計画だったのじゃないかしら。そういったこまかい説明は、みんなその人がしたのだし」 「誰なんですか、こんな変なことを考えたりする人って?」 「それがだめなのよ、当分のあいだは内緒にしておくようにって言われてるの」 「いいじゃないですか、どうせここまでバレちゃったんですもの」 「それはそうだけど……」 「あっ、分かった、川根さんの上司の人じゃない? 若くてエリートで、すっごく頭がいいとかいう」
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