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ミュウミュウスタッズリボン財布編集

 清十郎は腰かけたままながめていた。ほっとした気持がどこかでしないでもない。しかし、決して愉快ではなかった、自分の力が軽視された結果にほかならないのだ。父の死後、怠って来た修業のあとを|省《かえり》みて、清十郎は暗い気持だった。  ——あれほどな門下や家人が、どこへ|潜《ひそ》んでしまったか、道場には、もう彼一人しか残っていなかった。そして、井戸の底に似た物音のない暗さと冷たさが、邸のうちを占めた。  ——じっとしていられないものが、清十郎の腰を起たせた。窓からのぞいてみると、灯の色が|映《さ》しているのは、武蔵という客を待たせてある一室だけで、そのほかに何物も見えなかった。      五  障子のうちの|燈火《ともしび》は、時々、静かな|瞬《またた》きをしていた。  縁の下、廊下、隣の書院など、その|仄《ほの》かな灯影のゆれている一室の他は、すべて暗かった。徐々と、無数の眼が、|蟇《ひき》のようにその闇を這い寄っていた。  息をころし、|刃《やいば》を伏せて、 「…………」  じっと、|燈火《あ か り》のさす内の気はいを、|身体《か ら だ》じゅうで訊き澄ます。 (はてな?)  藤次は、ためらった。  他の門人たちも、疑った。  ——宮本武蔵とやら、名まえこそ都で聞いたこともない人間だが、とにかくあれほどつかう腕の持主である。それが、しいんとしているのはどういうものだろう、多少なり兵法に心をおく人間ならば、いくら上手に忍び寄ろうが、これだけの敵が室外に迫って来るのを気づかずにいるはずはない。今の世を兵法者で渡ろうという者が、そんな心がまえであったら、月に一ツずつ生命があっても足らないことになる。  ——(寝ているな)  一応は、そう考えられた。  かなり長い時間であったから、待ちしびれを切らして、居眠っているのではあるまいかと。
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