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フォーエバー21カバン編集

 府中署には昔、西条署で平《ヒラ》刑事同士だった有泉という男が部長刑事を務めている。折よく在席していて、野上が訪ねるとすぐに立って、近くの喫茶店へ連れ込んだ。 「えらい難事件らしいの」  一別以来の挨拶が済むと、有泉は言った。三次駅殺人事件は、目下のところ広島県警が捜査中の諸事件の中のピカ一なのである。 「初動捜査に手抜かりがあったと聞いとるが」 「そげなこと、誰が言うとるんじゃ」 「本庁のエライさんがそう言いよったとか、ウチの署長が洩《も》らしとったが」 「ふうん……」  野上はすぐに桐山の顔を思い浮かべた。あのエリート警部のことだ、迷宮入りになるような場合を想定して、しっかり伏線を張っているとしても不思議はない。そう思いながら、しかし野上は、桐山のこととなると妙に神経質になり、悪意のある憶測をしたがる自分に気付いて、心の裡《うち》で苦笑した。これはまさしく�桐山コンプレックス�と言うべきものではないか——。 「ところで今日は何じゃね」 「いや、別に何ちゅうこともないが被害者《ガイシヤ》の足取り捜査の帰りなんじゃ。出雲から始まって、今日、尾道からここまで辿ってきて、これで終《しま》いじゃがの」 「そうか、そりゃご苦労なこっちゃ。それで何かめぼしい聞き込みはあったんか」 「何もなしじゃ、この事件はだいたい犯行の目的もはっきりせんのんじゃが、被害者《ガイシヤ》がなぜ三次へUターンしたのかなんちゅうことも見当がつかん。尾道の旅館を出た時は、確かに東京へ帰る、言うとったそうじゃ。誰かに誘われた、ということも考えられるが、府中駅で被害者《ガイシヤ》を見た駅員は、二人とも彼女は独りでおったと証言しとるし、他《ほか》には今のところ目撃者もおらんし、収穫《みやげ》はゼロ、ちゅうことじゃな」 「目撃者を探しとるんか」 「いや、そう積極的にちゅうわけではない。まあ、彼女に接触を図ったような人物——男じゃな——そういう者がいたという事実があるかどうか、それを知りたいんじゃが、どうやら、よほど魅力のない女性だったと見えて、悪い虫が近づいた気配もない」  野上は少し、不謹慎な笑い方をした。 「そうらしいなあ、相当なブスじゃ、言うとったけん」  有泉も調子を合わせた。 「誰がいな?」
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