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フォーエバー21 交換編集

 外で、天ぷらを食べたり、酒を飲んでも少しも楽しまない。損な性分だとつくづく思う。啓造はゆっくり読書でもしようと、書斎に上がった。読みかけのクローニンの「人生の途上にて」が机の上においてある。本をひらくと、階下で何か物音がした。階段を降りて行ったが誰もいない。玄関と裏口に錠をおろし、再び書斎に上がった。  だが、どうも落ちつかない。階下に人がいないと、二階は落ちつきの悪い場所だった。本を持って啓造は茶の間に降りてみた。やはり読書に身が入らない。いつも書斎で読書する几帳面な啓造には、茶の間は読書の場所ではなかった。  啓造は読書をやめて、テレビにスイッチを入れた。高速度撮影で、コマーシャルの少女がゆっくり空に昇って行った。その顔が、ひどく由香子に似ているような気がした。  思い立って啓造は、また書斎に上がって、古いアルバムをひらいた。病院の職員と、毎年正月には記念写真を撮っている。その中に由香子がいるはずだと思った。  アルバムの第一頁に、夏枝に抱かれた生後百日のルリ子の写真が貼られてあった。肥ってあごが二重にくびれている。啓造は目をそらして、すぐに次を開けた。  幼い徹とルリ子が、庭の砂場に足を投げ出し、その傍に啓造と夏枝がかがんで写っていた。ルリ子の頬に砂がついていて、生えはじめた歯もはっきりと写っている。誰に写されたのか、この時の記憶は啓造にはない。だが自分は、忘れているだけで、こんな楽しいひとときが、当時無数にあったにちがいない。確かにそこには、幸せな家庭の姿があった。啓造と夏枝の間に、何のわだかまりも、溝もなかった。ルリ子はこのまま、この家で育つべきであった。村井と夏枝に対する怒りが突如噴き上がるようで、啓造はアルバムをパタリと閉じた。由香子の昔の姿を見たいと思ったことも、妙にわびしく空しかった。  階下で電話のベルが鳴った。啓造は思わず腕時計を見た。八時の料金割引の時間までは、夏枝から電話はこないはずだ。まだ七時を過ぎたばかりだ。啓造は受話器をとった。 「俺だ、元気か」  機嫌のよい高木の声がした。啓造は救われたような気がした。 「おふくろがいないと変なものだな」  いきなり高木がいった。なるほど高木も人恋しく電話をしてきたのかと、啓造は安心した。 「それはそうだろうね。生まれてこの方、ずっと一緒に住んで来たんだからな」 「大した話し相手でもなかったのになあ。今日は彼岸だと気がついて、おふくろとさしで一杯やっていたところだ」 「そうか、そういえば彼岸だったね」  仏壇の前で、一人酒を飲んでいる高木を想像しながら、啓造はさっきのルリ子の写真を思い浮かべた。 「今日はあったかいな。旭川はどうだ」 「うん。でも、日が落ちると肌寒いよ」 「来月はもう雪が降るんだからなあ」
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