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クロエ2wayショルダーバッグエテル編集

 このときです。目をつぶっている老人の耳に、あの小さな鈴の音《ね》のような娘の声が、はじめて意味のあることばになって聞こえてきました。 「コノハヲクベテ、コノハヲクベテ」  娘は、そんなことを、いったのです。 「な、なんだって?」  老人は、目をあけて、もう一度娘のことばを聞きとろうとしました。が、その声はまた鈴の音のようになり、娘は、なおも何かいいながら、スープのなべをゆびさしているのでした。 (なるほど、スープを飲めば、あの子のことばがわかるんだ。飲めば飲むほど、はっきりわかるんだ)  老人は、勇気がでてきました。このスープこそ、なぞを解くカギのようでした。 「飲みすぎたら死ぬなんて、ありゃうそだ。うそっぱちだ」  老人は、そうさけぶと、たてつづけに、スプーンを、なべの中につっこみ、とうとう、ひとなべ飲みほしてしまいました。それから、目を白黒させ、体じゅうの神経をとぎすませて、じっとようすをうかがいました。  老人の体には、何ひとつ異常は、おきませんでした。そして、今度は、はっきりと娘のことばが、わかるようになったのです。それは、こうでした。 「木の葉をくべて。  春の若葉と匂う花、  ほそい小枝もふたつみつ。  それで、あたしの夢は、かなうの」  娘は、はっきりと、そういいました。けれど、いいおわったとたん、ストーブの光がきえ、娘のすがたも、きえました。燃料がつきたのです。  老人は、両手で、机の上を、まさぐるように、なでまわしました。いつまでも、いつまでも、まるで、出ていってしまった家族をさがすように。それから、さっきの娘のことばを、ゆっくりと思い出してみました。  木の葉をくべて。  春の若葉と匂う花、
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