クロエエデンラインショルダーバック
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null 雪が窓の外で烈しく渦を巻いていた。伊沢はそれを眺め、自分のこれからの運命を予告されているように感じていた。 [#改ページ]   6 雪の襲撃者     1  伊沢はべッドに腹這いになって、カーテンをあけ放した窓の外の雪を見ていた。  昨夜の狂ったような風は収《おさ》まっていたが、雪はやむ気配もなかった。際限もなく舞いおりる雪を見ていると、部屋全体が上昇していくような錯覚にとらわれそうになる。  そして静かだった。  枕もとの時計は六時二十何分かを示している。雪が降りつづいてはいても、窓には白い朝の明るさがあって、足音も話し声も、鳥の囀《さえず》りも物が触れ合う音も、何ひとつなかった。  伊沢はその静けさの中で眉をひそめていた。  人が一人死んだ。殺された。その事件に巻き込まれ、こうして静かな雪の中に隔離《かくり》されている。脱け出して来た東京の騒音の中では、きっと何かが渦を巻いているに違いなかった。  このホテルの秘密について、伊沢はまだよく知らされてはいない。組織の説明を、支配人の横井はまだごく大ざっぱにしかしてくれていないのだ。  いったいこれから何が起こるのだろう。……そう考えると、静けさの中にひたりこんではいられない気分であった。  とはいえ、不安ではなかった。  不思議なことであった。伊沢は今、慣れ親しんだ社会から突然見知らぬ世界へ連れ出されている。そこは彼が生活の基盤にしていた職場を敵とすることで成立している世界であった。